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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)13377号 判決

原告

詫間英彦

ほか二名

被告

等々力初

ほか一名

主文

被告らは各自、原告らそれぞれに対し、各三三六万一六六七円及びこれらに対する昭和六〇年七月三日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告らそれぞれに対し、各九六四万三三六三円及びこれらに対する昭和六〇年七月三日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年七月二日午後四時一五分ころ

(二) 場所 東京都大田区上池台三丁目二七番一四号先交差点(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 原動機付自転車(大田区ぬ六五〇八)

(四) 右運転者 被告等々力初(以下「被告等々力」という。)

(五) 被害者 詫間とし子(以下「亡とし子」という。)

(六) 事故の態様 被告等々力が加害車を運転して本件事故現場を走行する際、道路を横断中の亡とし子に衝突し、頭蓋底骨折、頭蓋内損傷の傷害を負わせ、同月五日死亡させた。

2  責任原因

(一) 被告等々力は、新聞配達のため、加害車の前部に新聞を満載しており、運転に当たつて前方注視の困難な状態にあつたにもかかわらず、本件事故現場を通過する際に前方を注視しなかつた過失があるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告新島隆(以下「被告新島」という。)は、加害車の使用者であり、自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により原告らの後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

亡とし子、詫間好彦(以下「亡好彦」という。)及び原告らは、次のとおり損害を被つた。

(一) 逸失利益 九七〇万四八〇九円

亡とし子は、死亡当時満六八歳の女子で、主婦として家事に従事していた。昭和五八年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計、全年齢平均の女子労働者の平均賃金は二一一万〇二〇〇円であり、昭和五八年簡易生命表による六八歳の女性の平均余命(一五・九五年)の二分の一(七・九五七五年)を就労可能とすると、対応する新ホフマン係数は約六・五七であるので、生活費控除率を三〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をホフマン式計算法で行うと、亡とし子の逸失利益は次のとおりの計算式により右金額となる。

(計算式)

二一一万〇二〇〇円×(一-〇・三)×六・五七=九七〇万四八〇九円(円未満切捨て)

(二) 亡とし子の慰藉料 二〇〇〇万円

亡とし子は、亡好彦と同居していたが、亡好彦が足腰が弱く寝たきりの状態であつたことから、一家の支柱の立場にあつたため、亡とし子本人の死亡による慰藉料は右金額を下回ることはない。

(三) 相続

亡とし子は、右損害賠償請求権を有するところ、亡好彦は亡とし子の夫であり、原告らは亡とし子の子であり、相続人であるから、亡とし子から右損害賠償請求権を相続分(亡好彦は二分の一、原告らは各六分の一)に応じて相続した。

(四) 亡好彦の固有の慰藉料 五〇〇万円

亡好彦は亡とし子の夫であり、同人の看護を受けていたことからすれば、亡とし子の死亡により受けた亡好彦の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料は右金額が相当である。

(五) 葬儀費用 一〇〇万円

亡とし子の葬儀費用として、亡好彦が右金額を支出した。

(六) 付添費用 三六万八〇〇〇円

亡好彦は、本件事故当時寝たきりの状態にあり、亡とし子の看護を受けていたため、亡とし子の死亡により亡好彦は介護料の支払を余儀なくされる状態となつたが、同人は昭和六〇年一〇月一日死亡した。この間の介護料は一日当たり四〇〇〇円が相当であり、本件事故の日から亡好彦死亡までの間の介護料は、次のとおりの計算式により右金額となる。

(計算式)四〇〇〇円×九二=三六万八〇〇〇円

(七) 相続

亡好彦は、右損害賠償請求権を有するところ、原告らは亡好彦の子であり、相続人であるから、亡好彦から右損害賠償請求権を相続分(原告らは各三分の一)に応じて相続した。

(八) 原告らの固有の慰藉料 各一〇〇万円(合計三〇〇万円)

原告らは、亡とし子の子であるから、亡とし子の死亡により受けた原告らの精神的苦痛を慰藉するための慰藉料は右金額が相当である。

(九) 交通費 各五万円(合計一五万円)

原告らは、本件事故により交通費等として少なくとも右金額の支出をした。

(一〇) 弁護士費用 合計三九二万二二八〇円

原告らは、被告らが任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告ら代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したが、被告らは右金額を負担すべきである。

(一一) 損害のてん補

原告らは、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から一三二一万五〇〇〇円、被告らから一〇〇万円の各支払を受け、これを各三分の一ずつ損害に充当した。

(一二) 合計 各九六四万三三六三円

原告らの計算によれば、原告らの各損害は右金額となる。

よつて、原告らそれぞれは、被告らに対し、各自九六四万三三六三円及びこれらに対する本件事故の日の後である昭和六〇年七月三日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2  同2(責任原因)の事実中、(一)は否認し、(二)被告新島が加害車の使用者であり、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により原告らの後記損害を賠償する責任があることは認める。

3  同3(損害)の事実中、亡好彦は、亡とし子の夫であり、原告らは、亡とし子の子であり、その主張のとおり相続したこと、原告らは、自賠責保険一三二一万五〇〇〇円、被告らから一〇〇万円の各支払を受け、これを各三分の一ずつ損害に充当したことは認め、その余は知らない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実中、被告新島が加害車の使用者であり、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により原告らの後記損害を賠償する責任があることは当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲一一、一二、一四、一五、一七、一八号証、乙一号証及び被告等々力本人尋問の結果によれば、被告等々力は、新聞配達のため、加害車の前部に新聞を満載しており、運転に当たつて前方注視の困難な状態にあつたにもかかわらず、一方通行の道路を逆行して本件事故現場まで走行し、前方を注視しなかつた過失があることが認められ、右認定の事実を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、被告等々力は、民法七〇九条により原告らの後記損害を賠償する責任がある。

三  同3(損害)の事実について判断する。

亡とし子、亡好彦及び原告らは、次のとおり損害を被つた。

1  逸失利益 七五〇万円

成立に争いのない甲三号証及び原告詫間英彦本人尋問の結果によれば、亡とし子は、大正五年一二月二日生まれの死亡当時満六八歳の女子で、主婦として家事に従事していたことが認められる。そうすると、亡とし子は、昭和五八年簡易生命表による六八歳の女性の平均余命は、一五・九五年であるから、七年間は就労可能とみるのが相当であり、その間の労働の価値は、平均して昭和五八年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・六五歳以上の女子労働者の平均賃金一九九万五六〇〇円を下回ることはないものというべきであり、生活費控除率を三五パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、亡とし子の逸失利益は次のとおりの計算式により右金額となる。

(計算式)

一九九万五六〇〇円×(一-〇・三五)×五・七八六三=七五〇万円(一万円未満切捨て)

2  亡とし子の慰藉料 九〇〇万円

本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、亡とし子の死亡によつて同人が受けた精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当である。

小計 一六五〇万円

3  相続

亡とし子は、右損害賠償請求権を有するところ、亡好彦は亡とし子の夫であり、原告らは亡とし子の子であり、相続人であることは当事者間に争いがないから、亡とし子から右損害賠償請求権を相続分(亡好彦は二分の一、八二五万円、原告らは各六分の一、二七五万円)に応じて相続した。

4  亡好彦の固有の慰藉料 三〇〇万円

前掲甲三号証及び原告詫間英彦本人尋問の結果によれば、亡好彦は亡とし子の夫であり、同人の看護を受けていたことが認められ、その他本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、亡とし子の死亡によつて亡好彦が受けた精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当である。

5  葬儀費用 九〇万円

弁論の全趣旨によれば、亡好彦が亡とし子の葬儀費用として、相当額の支出したことが認められるが、そのうち被告らの負担すべき額は右金額が相当である。

6  付添費用

原告詫間英彦本人尋問の結果によれば、亡好彦は、本件事故当時寝たきりの状態にあり、亡とし子の看護を受けていたため、亡とし子の死亡により亡好彦は、他の者の介護を必要とすることとなつたことが認められる。ところで、介護は、亡とし子の主婦労働に替わるものであるところ、亡とし子の主婦労働の損害は、既に算定ずみであるから、亡好彦の介護費用として、別に算定することは損害を二重に算定することになるので、介護費用については認めないこととする。

亡好彦の損害の小計 一二一五万円

7  相続

亡好彦は、右損害賠償請求権を有するところ、同人は昭和六〇年一〇月一日死亡し、原告らは亡好彦の子であり、相続人であることは当事者間に争いがないから、亡好彦から右損害賠償請求権を相続分(各三分の一、四〇五万円)に応じて相続した。

8  原告ら固有の慰藉料 各一〇〇万円

本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、亡とし子の死亡によつて原告らが受けた精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当である。

9  交通費 〇円

原告詫間英彦本人尋問の結果によれば、原告らは、本件事故により雑多な経費の支出を余儀なくされたことが認められるものの、その額を確定するに足りる証拠はない。

小計 原告ら 各七八〇万円

10  損害のてん補

原告らは、自賠責保険から一三二一万五〇〇〇円、被告らから一〇〇万円の各支払を受け、これを各三分の一ずつ(四七三万八三三三円、円未満切捨て)損害に充当したことは当事者間に争いがない。

小計 原告ら 各三〇六万一六六七円

11  弁護士費用 各三〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らが任意に右損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告ら代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告らに損害賠償を求めうる額は、原告らそれぞれにつき右金額とするのが相当である。

12  合計 原告ら 各三三六万一六六七円

四  以上のとおり、原告らの本訴請求は、原告らそれぞれにつき各三三六万一六六七円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和六〇年七月三日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却するこのととし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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